33.江戸筆

 表紙に戻る

文房四宝の一つ「筆」は、 「日本書紀」の推古天皇の18年(610年)3月の条に、 高句麗僧曇徴(どんちょう)が 「紙、墨の製法を招来した」と記されており、 一応これが筆、墨、硯、渡来の嚆矢とされています。
以来、文化の発展と伝承に欠かすことのできない道具として、 用途別に各種の筆が製造され、 その製造技術も進歩改良されてきました。
江戸時代も中期には、 商人の台頭とともに「寺小屋」が急増し、 庶民の間にも筆が普及し大量に使われるようになり、 江戸の筆職人の技術もさらに進歩し、 多くの江戸名筆を生みました。
江戸主流の製造法「練りまぜ法」は 元禄期に細井広沢により確立された手法で、 明治5年の学制発布と共に急速に広まりました。
関東大震災、第二次世界大戦の惨禍により、 筆職人の多くは東京を離れましたが、 東京に残った筆職人は、 高級筆の製造に活路を見出し、 技術技法の継承を図っています。
筆の穂先には山羊毛・馬毛・豚毛・たぬき毛 いたち毛・猫毛などが使われます。 中でも書道用の筆には 中国産の山羊毛が多く使われ 中でも首下、内腿部の毛が最良の毛として珍重されています。
先出造りは、筆の命といわれる穂先を造りだす作業で、 金櫛で梳きながら毛先を揃え、 毛先の無い毛や逆毛を取り除きます。
型造りは、穂の形を作り出す作業で、 毛の間のバランスを図り、 穂先の美しさを出すには高度の熟練を要します。
練りまぜは、 毛丈の違う毛を均一にまぜあわせる工程で、穂の良否を左右します。
芯立ては、こまを使って穂の形を作り出す作業で、芯の固さ、 穂先の弾力など指先の感触を頼りに毛の量を調整するものです。